東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)9号 判決
請求原因事実は全部当事者間に争いがない。
右事実によれば、審決は、引用例に記載された技術事項を誤つて認定した結果本願発明と引用発明とが同一であるとの誤つた結論に至つたものというべきであるから、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がある。
よつて本訴請求を認容する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四九年五月九日特許庁に対し、名称を「マトリクスプリンター」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九七三年五月一〇日アメリカ合衆国にした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願をしたが、昭和五七年三月二五日拒絶査定を受けたので同年八月一〇日審判を請求した。特許庁は、これを同庁同年審判第一六六〇八号事件として審理したが、昭和五八年七月一二日「審判請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年九月一四日原告に送達された(出訴期間三か月附加)。
二 本願発明の要旨
(イ) 隣接した複数の列に配置されかつ印刷媒体に面して置かれた印圧素子を備えた複数のプリンタ部材であつて、各列の印圧素子はその隣りの印圧素子に対し縦方向及び横方向にずれて配置されており、前記印圧素子を用いてドツトマトリクスを記録することにより印刷媒体に文字を形成するようにした複数のプリント部材と、
(ロ) 順次各列のプリント部材のなかから選択したものを駆動してそれらの印圧素子を前進させ印刷媒体と接触させ、これにより各列により形成されるドツトがその隣りの列の印圧素子により形成されるドツトに対し縦方向及び横方向にずれるようにするプリント部材駆動手段と、
(ハ) プリンタヘツドを印刷媒体の横方向に沿つて、各文字を形成すべく一連の歩進位置に合わせて歩進的に動かし、かつ歩進間隔が前記印圧素子の隣り合う列間の間隔に相当するように動かすプリンターヘツド移動手段とから成り、前記プリント部材駆動手段により各歩進位置において各列のプリント部材のうちから選択したものを順次駆動することにより、ある列のプリント部材のうちから選択したものを前記プリント部材駆動手段で駆動することにより形成されるドツトが前記ある列の隣りの先行する列のプリント部材を隣りの先行する歩進位置において駆動することによりすでに形成されているドツトと部分的に重なり合いかつ縦方向で一致するようにし、これによりプリンターヘツドを各文字を形成すべく一連の歩進位置にわたつて順次移動させた場合ドツトマトリクスによりみかけ上実線でできた文字が形成されるようにし、さらに、前記印圧素子を一対の列に配列し、一方の列を他方の列より一ドツトより狭い幅だけ隔てたことを特徴とするマトリクスプリンタ。
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨は、前項のとおりである。
2 これに対し、本願の優先権主張日前の出願であつて右優先権主張日後に出願公開された特願昭四七―八八六六三号(出願日昭和四七年九月六日、公開日昭和四九年五月二日)の願書に添付された明細書及び図面(以下これを「引用例」といい、これに記載された発明を「引用発明」という。)には、複数の組のプリントワイヤ列を持つ高速高印字品質のワイヤドツトマトリツクス方式のプリンタ装置について記載されており、第二図のプリントワイヤ列は、第一のプリントワイヤ列に対して、列方向にプリントワイヤのピツチ(印字されたマトリツクスの隣接ドツトの中心間の距離)の二分の一だけずらして配置してあり、第一の実施例では印字動作を一ピツチ(二分の一ピツチは誤記)毎に行い、第三図に示すように第一のプリントワイヤ列で実線で示したドツトを記録し、第二のプリントワイヤ列で点線で示したドツトを縦横共に約二分の一ピツチずれた位置に記録する。また、第二の実施例では印字動作を二分の一ピツチ(一ピツチは誤記)毎に行ない、第五図に示すように第一のプリントワイヤ列によるドツトと第二のプリントワイヤ列によるドツトが上下方向に二分の一ずつずれて一直線上に重なつて記録される。各実施例の印字例は第四図及び第六図に示されており、第六図記載の文字はみかけ上実線でできたように形成されていることは明らかである。(別紙(二)図面参照)
3 そこで本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明は、印圧素子の一方の列を他方の列より一ドツトより狭い幅だけ隔てているのに対し、引用発明の第一のプリントワイヤ列と第二のプリントワイヤ列との間隔については明記されていない点で一応相違するが、その他の構成は、プリント部材駆動手段等は周知であるので、実質上一致している。
4 ところで、右相違点について考えるに、引用例の第三図の第一実施例のドツト配列図が第一及び第二プリントワイヤ列を一ピツチ毎に印字したものであつて、実線で示したドツトと点線で示したドツトの間隔が約二分の一ピツチであり、同じく第五図のものが二分の一ピツチ毎に印字して実線のドツトと点線のドツトとが列方向で重なることからすると、第一と第二のプリントワイヤ列の間隔は約二分の一であることは明らかである。そして第二図において各ワイヤ列の間隔を大きくしているのは、作図上分かりやすくしたためのものである。
してみれば、引用例のプリントヘツドは、第一プリントワイヤ列と第二プリントワイヤ列との間隔を一ドツトより狭い幅だけ隔てているといえるので、右相違点に実質的な差異は認められない。
5 よつて、本願発明は、引用例第二図記載のプリントヘツドを用いて第二実施例における印字動作を行い、第六図記載のような文字を印字したものと同一であり、本願出願人と引用発明の出願人とが同一人であるとは認められないから、特許法二九条の二の規定により特許を受けることができない。
〔編註その二〕 請求原因に対する被告の認否は左のとおりである。
請求の原因事実は全部認める。